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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)4821号 判決 1996年4月25日

原告

橋本こと呉清尚

被告

井上清

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金四一六万六五三四円及びこれに対する平成五年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告らの、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告らは、原告に対し、連帯して金一五〇一万七六〇九円及びこれに対する平成五年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、交差点において普通乗用自動車と原動機付自転車が衝突し、原動機付自転車の運転者が負傷した事故に関し、負傷した被害者が、普通乗用自動車の運転者に対し、民法七〇九条に基づき、右運転者の使用者兼右自動車の運行供用者に対し、民法七一五条一項、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償(一部)を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成三年八月三一日午前零時三五分ころ

(二) 場所 大阪府東大阪市菱江五九〇番地先路上(以下「本件現場」という。)

(三) 加害車両 被告南翔交通株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員である被告井上清(以下「被告井上」という。)が運転する普通乗用自動車(タクシー、なにわ五五い二五八八、以下「被告車」という。)

(四) 被害車両 原告が運転する原動機付自転車(東大阪市ろ二四八八、以下「原告車」という。)

(五) 事故態様 被告車が本件現場の交差点を南から北へ走行中、同交差点を西から東へ走行していた原告車と衝突し、負傷したもの

2  被告井上は、被告南翔交通株式会社のタクシーで業務執行中に本件事故を起こした(甲一〇)。

3  原告は、本件事故による後遺障害として自動車損害賠償法施行令二条別表(以下「自賠責等級表」という。)一二級一二号の認定を受けた。

4  損害のてん補

原告は、本件事故による損害のてん補として、自賠責保険から二二四万円、労災保険から七三万五五一〇円(西奈良中央病院と前倉外科の全治療費二五万九二三〇円と一軒家整骨院の治療費中四七万六二八〇円に充当)、被告らから一九一万五七七六円の合計四八九万一二八六円の支払いを受けた。

三  争点

1  過失・過失相殺

(被告らの主張)

原告は、本件現場の交差点に進入する前に被告車を認めていながら加速したのであるから、五〇パーセント以上の過失相殺がされるべきである。

(原告の主張)

原告は、黄色点滅信号に従い、本件現場の交差点に進入する直前で安全確認をするため一旦徐行し、進入を開始した際には、被告車が赤点滅信号に従つて当然停止すると思い、速やかに同交差点を通過した方がよいと判断して加速したのであるから、本件事故に関し、原告には何ら落ち度はない。

2  損害(特に原告の海外留学後である平成四年九月以降の損害)

第三争点に対する判断

一  争点1(過失・過失相殺)について

1  前記争いのない事実及び証拠(甲一の一、二、二、四、五の一、二、六ないし一一、原告)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件現場は、赤点滅の信号表示がある南北道路と黄点滅の信号表示がある東西道路とが交わる交通整理の行われていない十字型交差点(本件交差点)であり、付近の状況は交通事故現場見取図(以下「図面」という。)のとおりである。右各道路は、いずれも片側一車線のアスフアルトで舗装された平坦な道路(道路幅は南北道路が六・一メートル、東西道路が九メートル)であり、最高速度は時速四〇キロメートルに規制され、前方の見通しはよいが、左右はよくないが、現場付近は夜間でも街路灯があつて明るい。また、本件事故当時、本件現場の交通量は閑散とし、天候は小雨で路面は濡れていた。

(二) 被告井上は、被告車を運転して南北道路を時速約五〇キロメートルで北進し、赤点滅の本件交差点手前の図面<1>でやや減速して時速四〇キロメートルで図面<2>まで進行したとき、左方の東西道路を東進してきた原告車を図面<ア>に発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、図面<3>の被告車の前部が図面<イ>の原告車の右側面部と衝突した。

(三) 原告は、原告車を運転して東西道路を時速約四五キロメートルで東進し、黄点滅の本件交差点手前で時速約二五キロメートルに減速し、図面<ア>の手前辺りで南北道路を北進してきた被告車を図面<1>と<2>の中間辺りで発見したが、被告車が進路を譲つてくれるものと思い、加速して時速約四〇キロメートルで本件交差点に進入したところ、被告車が一時停止せずに同交差点に進入したために前記のとおり衝突した。

2  以上の事実によれば、本件事故は、被告井上が左右の見通しが悪い赤点滅の本件交差点に進入するに当たり、同交差点手前の停止線で一時停止し、左右を確認すべき注意義務があつたにもかかわらず、交通が閑散であつたのに気を許して右注意義務を怠り、時速約四〇キロメートルで走行した過失により発生したものであるが、他方、原告にも、本件交差点手前で被告車に気付きながら進路を譲つてくれるものと軽信し、加速して時速四〇キロメートルで同交差点に進入した過失があり、前記事故態様に照らせば、原告の過失割合は一割五分とするのが相当である。

二  争点2(損害)について(円未満切捨て)

1  証拠(甲三の一、二、一二、一四、一五の一、二、一六の一ないし四、一七の一ないし五、一八の一、二、一九の一ないし八、二〇、二一、二五、乙一ないし五、七、原告)及び弁論の全趣旨によれば、原告の治療経過は以下のとおりであることが認められる。

(一) 原告は、本件事故により左距骨剥離骨折、右肩打撲等の傷害を受け、医療法人寿山会喜馬病院で平成三年八月三一日、長生会布施病院で平成三年九月二日から同年一一月二六日まで(実日数九日)、新大宮整形外科で平成四年二月一日から同年八月四日まで(実日数六日)、一軒家整骨院で平成三年八月三一日から平成四年三月三一日まで(実日数一二〇日)、前倉外科で平成四年九月九日から平成五年五月三一日まで(実日数五四日)、西奈良中央病院で平成四年一〇月三〇日から平成五年五月二一日(実日数一〇日)通院治療を受けた。

(二) 右治療内容としては、右肩打撲については、一軒家整骨院で平成三年九月初めころから平成四年三月ころまでリハビリテーシヨンを受けたが、左距骨剥離骨折については、布施病院で平成三年九月二日から同年一〇月二二日まで患部をギブス固定され、一軒家整骨院でリハビリテーシヨンを受けた。しかし、左足関節と右肩等の痛み及び可動制限の症状が依然として継続していたため、同整骨院の紹介で新大宮整形外科の診察を受けたところ、右症状の基盤には反射性交感神経性萎縮があるため半年から一年程度の経過観察を要する旨の診断を受け、足関節周囲筋の自動及び抵抗運動が必要で、自転車、水泳トレーニングなどを指示された。また、同外科で海外留学しても支障がないとの診断を受けたので、平成四年四月初めころから同年八月初めころまでニユージーランドとオーストラリアに留学し、留学先でも自ら歩く練習等のリハビリテーシヨンをしていた。帰国後、前倉外科で温熱治療を受けたが、左足関節の痛みが改善されないため、同外科の紹介で西奈良中央病院の診察を受け、足根洞症候群と診断され、注射による治療を受けていたが、平成五年五月三一日、前倉外科で足根洞症候群により左足関節に頑固な疼痛等の症状が残存する旨の後遺障害の診断を受け、自賠責等級表一二級一二号の認定を受けた。なお、前倉外科では、原告の留学が原告の症状を悪化させたり、足根洞症候群の発症の原因とはならない旨診断している。

2  治療関係費(主張額一四四万三〇三一円) 一四四万三〇三一円

原告は、前記のとおり、本件事故による前記傷害を受け、前記治療を要したが、右治療関係費は前記した労災給付分より充当した七三万五五一〇円を含む一四四万三〇三一円となる(甲一四、一五ないし一八の各二、一九の二ないし八、弁論の全趣旨)。

3  休業損害(主張額二七六万二五〇〇円) 一九五万円

原告は、本件事故当時、専門学校生であつたが、東日本運輸興行株式会社関西支社で荷を下ろしたり、分けたりするアルバイトをし、月平均一六万二五〇〇円の収入を得ていたが(甲一三、原告)、本件事故により前記傷害を受け、右アルバイトに支障が生じたことが認められるが、右仕事内容、前記した治療経過等に照らせば、留学前の平成四年三月まで七か月間は就労不能、留学後平成四年八月以降症状固定日である平成五年五月まで一〇か月間は就労制限五割程度とするのが相当であるから、以下のとおり一九五万円となる。

162,500×7=1,137,500

162,500×10×0.5=812,500

4  交通費(主張額三九万一八四〇円) 六万六八六〇円

原告は、前記各病院に通院するため、電車、バス、タクシー代として六万六八六〇円を費やしたことが認められる(甲二六の一ないし二七、二八、弁論の全趣旨)。

5  文書費(主張額五〇〇〇円) 五〇〇〇円

原告は本件事故により文書費五〇〇〇円を費やしたことが認められる(乙七、弁論の全趣旨)。

6  通院慰謝料(主張額一五〇万円) 一二〇万円

前記した通院期間、原告の症状等を勘案すれば、一二〇万円が相当である。

7  後遺障害逸失利益(主張額一〇四〇万一四九九円) 三三四万四三一〇円

原告は、本件事故当時、一九歳の専門学校生であり、症状固定後の平成六年三月に二二歳で卒業し、同年四月から旅行会社に就職し、少なくとも平成四年度産業計・企業規模計・男子労働者の高専・短大卒の二〇歳から二四歳の平均年収三〇〇万六七〇〇円を得られた蓋然性が認められ(原告、弁論の全趣旨)、前記後遺障害(自賠責等級表一二級一二号)のため一四パーセントの労働能力を喪失し、前記後遺障害の内容、程度等に照らし、喪失継続期間を一〇年間とするのが相当であるから、新ホフマン方式により中間利息を控除して原告の後遺障害逸失利益を算定すると、以下の計算式のとおり三三四万四三一〇円となる。

なお、被告らは、前記後遺障害が留学に起因して発症したとして本件事故との因果関係を否定し、仮に因果関係が肯定されるとしても、留学が損害拡大に五割以上寄与した旨主張するが、前記した治療経過特に原告が留学した時期はすでにリハビリテーシヨンの段階に入つていた上、担当医師から留学しても支障がない旨の診断を受けて留学した事情等に鑑みると、被告らの右主張は採用できない。

3,006,700×0.14×7・9449=3,344,310

8  後遺障害慰謝料(主張額二五〇万円) 二二〇万円

前記後遺障害の内容、程度等に照らせば、二二〇万円が相当である。

9  以上の損害合計一〇二〇万九二〇一円となるが、前記した一割五分の過失相殺をし、既払金四八九万一二八六円を控除すると、三七八万六五三四円となる(最高裁平成元年四月一一日第三小法廷判決参照)。

10  弁護士費用

本件事案の内容、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は三八万円が相当である。

三  以上によれば、原告の請求は、金四一六万六五三四円及びこれに対する原告の症状固定の翌日である平成五年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

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